地域包括ケア最前線

地域で暮らす医療的ケア児と家族を支える

  • No.52017年12月1日発行

休む間もない!
ケアに追われる家族

医療的ケア児を介護する家族の悩みはさまざまだが、どれも深刻だ。家族は24時間365日続くケアのため、まとまった睡眠時間がとれない上、買い物に行くにも医療的ケア児を誰かに見てもらう体制を整える必要がある。また日中、医療的ケア児を地域の保育園に預けたくても、医療的ケアに対応する看護師が園にいないという理由から、断られる場合がほとんど。同世代の子どもたちとの関わりも、少なくなりがちだ。しかも親たちはケアに追われて、医療的ケア児の兄弟や姉妹に向き合う時間も大幅に減少する。家族そろって一緒に過ごす時間が少なくなり、兄弟や姉妹たちが通う保育園や学校の行事に親が参加することすら難しいこともある。

今年9月、もみじの家に3泊したのは、都内に住む咲良(さら)ちゃん(3)。母親によると、咲良ちゃんには18トリソミー*2の疾患があるため、1日6回のミルクのほかにも酸素吸入、さらには浣腸などの細やかなケアを毎日行うという。「もみじの家の利用は、今回で3回目。ここで保育に参加するようになってから、娘はいろいろなものに興味を持つようになりました。私もケアを看護師さんにすべてお任せできるので、朝までぐっすり眠れます」と話す。

ボランティア(写真左)も保育活動に参加。現在、ボランティアの登録者数は120人

ツリーチャイムのように、音の出る楽器も保育に取り入れる

「ここ(もみじの家)に来て、自分が疲れていることに初めて気がつきました」と話す母親は、今後も積極的に施設を利用したいと考えている。だが現実は、都内の自宅からもみじの家までの移動は車で1時間。重い疾患を抱える咲良ちゃんにとって、決して近い距離ではない。「娘のケアは普通のことなので大変だとは思わないのですが、気づくと疲れがたまっています。また、他にも細やかなケアが必要な子どもはたくさんいます。都内のあちこちにこんな施設があると、医療的ケア児に向きあう家族がもっと楽になるはず」と、第二、第三のもみじの家ができることを強く希望していたのが印象的だ。

中庭には、シンボルツリーとなる「もみじの木」が、利用中の子どもたちと家族を見守る

増える利用者、
課題は施設運営費

もみじの家のような取り組みを全国的に広げていくためには、運営費の確保という課題がある。もみじの家の経営は、国の制度である障害福祉サービス費と、東京都や世田谷区からの補助金で、収入の6割をまかなっている。あとの4割は、寄付金に頼っているのが現状だ。

しかも医療的ケア児を支えるもみじの家の場合、医療と福祉という2つの分野でのサービスが必要となる。例えば、集団保育活動。保育士を中心に行われる1日2回のこうした時間は、看護師や保育士、介護福祉士などの専門職が子どもたちを見守るが、活動に対する報酬はないという。内多さんも、「現状の制度のままでは、子どもたちに手厚いケアをすればするほど赤字になります。もみじの家のような施設が全国各地にできるためには、まず安定して事業ができることが重要です」と話す。

今後は、医療的ケア児を社会で支えるという、国民的なコンセンサスが醸成されることが重要だと考えている内多さん。「昔は介護といえば、お年寄りや障害者の世界でした。でもこれからは、子どもの世界にも介護が必要です。それが、どれだけ認知されるのか。行政を巻き込んだ、社会的な議論が必要です」と強く訴える。

こうした医療的ケア児を支援するために、国も動き始めている。2016年の児童福祉法の改正によって、「医療的ケア児」が初めて法的に明記された。地域の支援体制をさらに整備することが、自治体の努力義務となった。
もみじの家でも、ゆくゆくは子どもたちが住む地域と協力していきたいと考えているという。「地域の訪問診療や訪問看護、デイサービス、学校とも連携しながら、その子にとってどういう支援が必要なのか考えていかなければならないと思います。子どもの成長にしたがって、長いスパンで個別に支援計画が立てられるといいですね」と話す内多さん。将来的には高齢者の地域包括ケアシステムのように、医療・福祉・教育が連携した子ども版地域包括ケアを実現させたいが、そのためにもまずは、もみじの家という足場をしっかり固めたいと話す。
「NHKのアナウンサーとして30 年間歩んだキャリアは、今の仕事のための長い助走期間だったのかもしれません。もみじの家を利用する子どもたちが『そろそろ、新しい制度をつくってよ』と私たちに訴えている声を、これからも伝えていきたいですね」

共用ダイニングキッチンでは、自炊も可能。大型テレビもあり、自宅のように家族で食事を楽しむことができる。ボランティアが、カフェを開くこともある

子どもだけが泊まる3人室と、家族そろって宿泊できる個室がある

家族で利用できる浴室も完備。温泉気分で入浴が楽しめる

*1 重症心身障害児:重度の肢体不自由と知的障害が重複した子どものこと。児童福祉における行政措置上の呼び方であり、医学的な診断名ではない

*2 18トリソミー:染色体異常が原因の先天性疾患。さまざまな合併症を持つことが多い。エドワーズ症候群とも呼ばれている

取材協力/
国立成育医療研究センター もみじの家
〒157-8535 東京都世田谷区大蔵2-10-1
TEL-03-5494-7135
http://home-from-home.jp/

内多 勝康氏

うちだ かつやす

1963年東京都生まれ。国立成育医療研究センター「もみじの家」ハウスマネジャー。NHKにアナウンサーとして入局後、「生活ほっとモーニング」「クローズアップ現代」などを担当。「クローズアップ現代」で、医療的ケア児と家族の現状を取材したことが転機となり、2016年春、52歳でNHKを早期退職して同施設に転職する。社会福祉士の資格を持つ。

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