地域包括ケア最前線

地域で暮らす医療的ケア児と家族を支える

  • No.52017年12月1日発行
先天的な病気などで、日常的に医療的ケアが必要な子どもたちがいる。
子どもを介護する家族の負担は大きく、24時間ケアに追われるため、ゆっくり休むことさえできない。こうした家族を支えるのが、医療型短期入所施設だ。
東京・世田谷区にある「もみじの家」ハウスマネジャーの内多勝康さんの話から、施設の現状とその課題を探る。

取材・文/富田 チヤコ 写真/吉住 佳都子

親子で安心!家族を支える
ケア施設「もみじの家」

医療的ケア児とは、たんの吸引や経管栄養(胃や腸への栄養剤の注入)など、日常的にさまざまな医療処置が必要な子どもたちのことだ。ケアのほとんどを家族が行うため、家族は夜もゆっくり眠れない状態で介護をする毎日が続く。

こうした医療的ケア児と家族を支える施設として2016年4月に開設されたのが、医療型短期入所施設「もみじの家」だ。この施設を利用できるのは、0歳〜19歳未満の子どもたち。医療的ケアが必要なくても、重症心身障害児*1や、肢体不自由1・2級という重度の身体障害者手帳のある子どもも利用することができる。

国立成育医療研究センターの敷地内にある「もみじの家」。利用料は、障害福祉サービス
費の原則1割負担の他、部屋の使用料(1日2000〜5000円)、食費などが必要となる

滞在できる日数は、最大で9泊10日。その間、子どもたちは看護師による適切なケアを受けながら、家ではできなかった遊びや学びを通じて「子どもらしいひととき」を過ごすことができ、介護する家族は「つかの間の休息」を取ることができる。まさに、在宅で介護する家族を丸ごと支える「第二の我が家」のような場所だ。

施設内で行う医療的ケアは、たんの吸引や経管栄養のほかにも、人工呼吸器を使った呼吸管理、さらには中心静脈栄養や腹膜透析など、家族が日常的に行なっているあらゆるケアに対応する。「医療的ケア児の中には、自分で歩いて移動できる子どももいます。障害を分類する既存の制度に当てはまらないこうした子どもの場合、他の施設で預かってもらうことは難しい。でも、もみじの家では対応しています」と話すのは、ハウスマネジャーの内多さん。「今は、1日に最大8人まで入所できる体制で運営をしています。子どもたちの命を守りながら、入所できる人数をさらに増やしていくことが今後の課題です」と話す。

2階のプレイコーナーで行われている朝の会。看護師、保育士、介護福祉士、理学療法士が、子どもたちを見守る。家族も、こうした活動に参加することが可能。
朝と夕方、1日2回の保育プログラムがある

医療的ケア児と
その家族の現状

もみじの家が開設された背景には、急増する医療的ケア児の問題がある。医療的ケアが必要な19歳以下の子どもたちの数は、2015年度の厚生労働省の集計によると全国で推計1万7千人。NICU(新生児集中治療室)をはじめとする小児医療の進歩により、乳児死亡率が改善したことが大きい。だが幼い命がたくさん救われるようになった一方で、急性期の治療が終了した後も、常時医療的ケアが必要な子どもが増加した。

この日は、「感じる」がテーマ。新聞紙を使って帽子や洋服を作ったり、色紙を使ったオリジナルのクッションを製作したりして楽しんだ

「”その人らしく生きる“を、支える」をコンセプトにしているもみじの家では、医療・生活介助・保育が1つの場所で行われている。医療的ケア児を24時間体制で見守るために、小児科の経験が5年以上ある看護師をはじめ、保育士、介護福祉士など総勢18人のスタッフが交代しながら子どもたちのケアを行う。この他に、国立成育医療研究センターの医師、ソーシャルワーカー、理学療法士も加わる。まさに、他職種が連携して子どもたちの命と成長を支えるからこそ、家族も安心して子どもをスタッフに任せることができる。

また、もみじの家を運営する国立成育医療研究センターは、小児・周産期医療の中心施設である。このため施設の利用を希望する医療的ケア児の居住地は、8割を占める東京都や周辺の神奈川、埼玉、千葉、そのほかにも、栃木県や福島県からの申し込みもあるという。「利用した人からの口コミで、希望者がどんどん増えています。今では、すべての希望に応えられない状況が続いています」と、内多さんも話す。

内多さんも子どもたちの手足をマッサージ。「がんばったね」と笑顔で声をかける