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キャッシュレス社会に生きる

  • No.122021年8月16日発行

近年、日本でもキャッシュレス決済が浸透しつつあります。特に、新型コロナウイルス流行後は、感染に対する不安から手渡しでの現金のやりとりを避けるようになったことが、キャッシュレス決済の浸透に追い風になっているようです。私自身も、現金を使う機会が減っています。コロナ前、2017年から縁あって、年に1〜2回ほどデンマークに行く機会がありました。その際、現地通貨への換金をして行くことはありません。結局、現金を使わないため、両替手数料が無駄になるからです。デンマークでは、有料公衆トイレまで全てキャッシュレス。現金は既に日常生活から消えています。どの銀行にもネットバンク機能があり、オンライン上で取引明細の確認や、振込等ができるため、ATMの利用者も激減しています。デンマーク住民は、自国内専用のデビットカード「Dankort」でタッチ決済ができるため、どんなに少額であっても、ほとんどの人がカード払いをします。旅行者でも、どんな田舎に行っても、小さな店でも、カード決済することができます。

世界一のデジタル先進国デンマーク(国連が隔年で発表する“世界電子政府ランキング”において、デンマークは2018年、2020年と2回連続世界一)は幸福度の高い福祉国家でもあります。デジタル先進国というと、介護もロボットやセンサーなどを使うといった、先進的な技術についてのイメージがありますが、それについては非常に慎重です。もともと、デンマーク人の暮らしは、非常にシンプルで合理的です。また、痒いところに手が届くようなサービスを享受しているわけでもありません。先進的なデジタルのシステムが人の生活を支えているのです。「人を中心に、デジタルが生活を支える」。これがデンマークでの発想です。

デンマークにある認知症の人のための介護施設に、コミュニケーションロボット(日本では、レクリエーションに使われているロボットです)について話をしに行ったことがあります。その時、彼らからは「面白いけど、私たちには必要ない」という言葉が返ってきました。その介護施設では、掃除はロボット掃除機が行い、食器洗いは食器洗い機を使い、情報は共有システムを利用していました。そして、コミュニケーションやリハビリテーションには、「人」が寄り添う。デンマークでも、もちろんコミュニケーションロボットの実証事業は色々と行われていますが、それは遠隔にいる人とのコミュニケーションをサポートするためのものです。テクノロジーによってできることは合理化し、人と人とのコミュニケーションについては、人にしかできないことを大切にする。デンマークに行くといつも感心する考え方です。そしてキャッシュレス社会のデンマークでの旅行は、とてもストレスが軽減されることを感じています。

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阿久津 靖子氏

あくつ やすこ

一般社団法人
日本次世代型先進高齢社会研究機構(Aging Japan) 
代表理事(Ambassador)

株式会社MTヘルスケアデザイン研究所
代表取締役・所長

津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科で地域計画を学び、その後修了。GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のためコンセプトプランニング・博覧会コンセプトプランニングや街づくり基本計画に携わる。その後、会社数社にて商品企画開発(MD)および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行い、2012年ヘルスケアに特化したデザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所を創業。Aging Innovation創出のためにはDesign thinkingの重要性を痛感し、現在のボードメンバーとともにAging Japanを立ち上げた。