地域包括ケア最前線

訪問看護師・秋山正子と「マギーズ東京」

  • No.22017年1月21日発行

東京都新宿区で、20年間にわたり訪問看護の実践を重ねてきた秋山正子氏。 秋山氏が共同代表を務めるNPO法人maggie’s tokyoが 昨年10月、東京都江東区にオープンさせた「マギーズ東京」は、 英国発祥のマギーズ キャンサー ケアリング センターの 日本第1号として注目されている。 がんとともに生きる人のための「マギーズ東京」とは、どんな施設なのか。

がん患者が自分自身を 取り戻す場所

 東京・豊洲。「ゆりかもめ」の市場前駅から徒歩4分。 リバーフロントの都市的な景観を背に、かわいい2棟の木造の家が現れた。 昨年10月にオープンした「マギーズ東京」だ。 英国で始まった「マギーズ キャンサー ケアリング センター」の日本での最初の施設になる。

センター長である秋山氏によれば、ここは「病院と自宅の間にある第二の我が家」だ。 利用者の7割ががん患者本人だが、家族や友人も利用できる。開館時間内であれば、いつでも予約不要で訪れることができる。 多くの人がとまどい不安な時に訪ね、看護師や臨床心理士にじっくり話を聞いてもらいながら、また自分で歩き出す力を取り戻していく。 病院にある「がん相談支援センター」では忙しい病院の事情もあり、どうしても医療情報を提供することが中心となってしまいがち。「マギーズ東京」では「聞く」ことに重きを置き、患者や家族の考えを否定せずに、一緒に納得できる方法を考えていく。

「その人のがんについての一番の専門家は、その人自身という考え方です。 医師から見れば素人であっても、がんとともに生きる人は患者本人ですから」

 スタッフは看護師、臨床心理士のほか、ボランティアも。 近隣のがん専門病院から、月数回相談業務に入る看護師もいる。全員が、事前に研修を受けてマギーズセンターの理念を理解した人たちだ。 秋山氏がスタッフに望むのは「来訪者と横並びの関係で、来訪者が主役と意識してお話をよく聞きながら、その方の不安がどこにあるのかを一緒に考えていくというスタイルを理解してもらえること」だ。 ひとことで言えば、ヒューマンサポーティブなケア、病気そのものではなく、病を抱えるひとりの人間を支えるケアに徹しているのだ。
「現在のがん医療は非常にスピードがあります。 それは決して悪いことではありません。 でも、その流れに気持ちがついていけない方にとっては、ベルトコンベアーに乗せられている自分を、外から眺めているような気持ちです。 そんな時は立ち止まってもいい、いったんベルトコンベアーを降りてゆっくり歩いてもいいのだとお話ししています」

来訪者は自分の気持ちを言葉にするうちに、自分自身の力を取り戻していく。 がん治療に関して意見のすれ違う夫婦が同じ方向を向いて歩きはじめる。 医療否定本を手にして「一切手術は受けたくない」と言っていた人が、「少しチャレンジしてみようかな」と顔を上げて帰っていく。 患者自身や周りの人たちが主体性を取り戻して、病気と向き合えるようになるという意味では、がん治療を担当する病院側にとってもメリットがある。