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Aging2.0 OPTIMIZE報告(2)

  • No.72018年5月31日発行
年に1回開催されるAging2.0の世界大会、「Aging2.0 OPTIMIZE」。
テーマは、“Experience the intersection of innovation and aging(高齢社会とイノベーションの交差点を体験する)”。今回は、その模様をお伝えします。

Aging2.0は、世界20カ国に50のボランティアチャプターがあり、15,000人の仲間がいます。Aging2.0 OPTIMIZEは、昨年11月14日、15日にサンフランシスコのハーベストシアターで開催されました。参加人数は1,000名ほどで、サンフランシスコ・ベイエリアの介護関係者やスタートアップがその多くを占めます。ヨーロッパの国々、ブラジル、香港などから多くの参加があり、世界的に関心の高さがうかがえます。“Aging”とは、「高齢者になってもいきいきと生活できる社会(コミュニティ)」という大きな意味で捉えた方がわかりやすいと思います。

高齢者の自立を
サポートする

キーノートパネルは、”AI-GING INTO THE FUTUR“。 AIとAgingをかけ合わせた造語なのだと思いますが、「AIで切り開く未来のエ イジング」とでも訳すといいのでしょう。MIT発のコミュニケーションロボット、”Jibo“の開発者でありチーフサイエンティストのCynthia Breazeal氏の講演でした。”Jibo“は開発初期から注目を集めていましたが、その後開発は難航していると言われていました。ただ、講演を聴いてわかったことは、実用化に向けて丁寧な基礎研究を行っていたということです。そして、今年満を持してのリリースとなります。

MITの開発によるJibo

双方向テレビで友人とつながることができます

日本では、”Amazon ECHO“や”Android・google home“が昨年発売されたばかりです。しかし米国では、 ”Amazon ECHO“が2014年に、 ”google home“が2016年にリリースされていて、すでに一般の家庭にも普及しつつあります。今回米国の大会で気付いたことは、価格、使い勝手のよさ、プラットフォームの広がりを考えると、コミュニケーションに特化したこうしたスピーカーの方が、 日本のいわゆるコミュニケーションロボットよりも、早く世の中に広がる可能性があるということです。特に音声認識でさまざまな操作ができるということは、 ITに不慣れな高齢者にとっても馴染みやすく、生活の場に浸透しやすいのではないでしょうか。日本では、「コミュニケーションロボット=アンドロイド型(人型)ロボット」というように、カタチにこだわるところがあります。しかし重要なのは、だれでもが手軽に使えて広がりがあること。”HUMAN CENTERED Design“、いわゆるデザイン思考です。

一般的なテクノロジーが在宅高齢者の生活を変えます。
米国では既にリーリースされているAmazon エコーショー

お薬管理ロボット

Alexaを活用した見守りサービス

こうした流れの中、”ELLI・Q“が今年米国でリリースされます。”ELLI・Q“は 、まさに「高齢者のために開発されたパーソナルAI」として唱われています。「ひとり暮らしの高齢者を社会とつなぎ、自ら活動的に暮らせるようにサポートする」というコンセプトはとても重要です。日本では、どうしても管理する側の利便性を考えがちですが、重要な目的は、高齢者がいつまでも自立して生活できるようにするためのサポートを行うことなのです。

今年リリースされるELLI・Q

都市はどうあるべきか

もうひとつ事例をご紹介しましょう。”Cities as Incubators for Successful Aging“という認定制度が米国にはあります。この選定をしているのはAssociate Milken Instituteというサンタモニカに本拠地を置く経済系シンクタンクです。基本的考え方は”Successful Aging“。「年齢による喪失の衝撃を最小限にくい止めながら、個人の可能性を最大限に生かす方法を見出し、人生に納得し満足して過ごせるよう、自己の加齢変化 に適応するための調整を行う」という考え方です。そのために、都市は どうあるべきかが課題となります。”Cities as Incubators for Successful Aging“のミッション&ゴールは以下のものになります。

毎年発表される
Successful A gingのレポート

まさに、少子高齢化の日本にとっても必要なことではないでしょうか?
こうしたミッション&ゴールを 達成するために、行政のリーダーに求められることは、多様化するコミュニティの特性とニーズを理解し、政策を具体的に展開すること。高齢者が生涯健康で社会から隔絶されることがなくなるように、高齢者が地域の中で活躍できるような場を生み出し、多様で革新的なエコシステムをつくること。移動のための設備を整備し、雇用機会を生み出し、高齢者にとって良い近隣環境をつくること。行政のリーダーには、そのような政策の立案や実践が求められます。

セッションの中では、その具体事例として、リッチモンドにおける自動運転による交通改革の実証実験が紹介されていました。高齢化したコミュニティにおいて、高齢者と社会をつなぐために、モバイルで自宅に自動運転コミュニティカーを呼び出し、近くのバスターミナルまで移動してダウンタウンに行くことのできるシステムです。ここで重要なのは、高齢者がダウンタウンに行くために必要な施設とサービスをつくるだけではなく、さらにこれらの運営形態もデザインされているということです。リッチモンドでは、シティデザイナーが介在してワーク ショップを開催、デザイン思考のプロセスを通じて、高齢者だけでなく全ての人々とともにミッション&ゴールを共有しながら政策をつくり出しているのです。

各セッションに参加して、これからの高齢社会に受け入れられる製品、サービス、まちづくりとはどのようなものなのかを実感することができました。私も、ぜひ高齢者サポートの仕事に活かしていきたいと思います。

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阿久津 靖子氏

あくつ やすこ

株式会社MTヘルスケアデザイン研究所 代表取締役・所長

筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。1999年、子育て期の終了とともに、子ども家具「フォルミオ」で情報発信型店舗の運営を行い、その後、寝具会社数社にて商品企画開発(MD)および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その当時より、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンク ヘルスケアデザイン研究所企画室長として参画。2012年独立し、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所を創業。