小規模多機能型居宅介護とは 対談 ケアマネ×SW

地域をつなぎ、 「その人らしく」を 共に支える

  • No.102019年8月26日発行
24時間365日、切れ目なく通所・宿泊・訪問の介護サービスを受けられるのが、「小規模多機能型居宅介護」。利用の現状と、医療と福祉が連携して利用者の生活を支える秘訣について、千葉県松戸市の小規模多機能型居宅介護で働くケアマネージャー・工藤和代さんと連携先病院のソーシャルワーカー・藤巻園実さんにお話を伺いました。

取材地/ガーデンコート常盤平(千葉県松戸市)
聞き手・構成/富田チヤコ 写真/吉住 佳都子

工藤 和代 さん

くどう かずよ

株式会社ヘルシーサービス
ガーデンコート常盤平営業所
管理者 兼 計画作成担当者

2000年入社。訪問介護スタッフとして勤務後、グループホーム施設長を経て現職。主任介護支援専門員。介護福祉士。認知症ケア専門士。

藤巻 園実 さん

ふじまき そのみ

医療法人社団鼎会 三和病院 地域連携医療福祉相談室長

デイサービスでの介護業務や
相談員業務を経て、2014年から現職。社会福祉士。

地域で暮らしたい
本人・家族の生活に寄り添う

小規模多機能型居宅介護(※1)とは、どんなサービスですか?

 

藤巻 利用者やご家族のご希望によって、「通所」「短期間の宿泊」「自宅への訪問」を組み合わせて提供するサービスです。

一般的な訪問介護や通所介護サービスは、それぞれ別の事業所から提供されます。小規模多機能型居宅介護は、「通所」「宿泊」「訪問」のサービスをすべて同じ事業所、なじみのある介護スタッフが行います。利用者やご家族のさまざまなご要望に対応することで、住み慣れた地域でその人らしい生活を支えるサービスとして利用が広がっています。

工藤 例えば小規模多機能型の通所なら、時間や曜日も自由に決められ、もちろん利用者のご自宅への送迎もあります。また宿泊もできる小規模多機能型なら、一般的なショートステイのように、申し込みをしても希望日の利用が難しいという事態もありません。当日の泊まりの申し込みにも対応します。

 

具体的には、どんなサービスをされていますか?

工藤 小規模多機能型の通所では、毎日決まったレクリエーションはありません。あるテーブルでは折り紙を折る人もいれば、別のテーブルでは世間話を楽しむ人もいます。それぞれ思い思いのペースで楽しんでいます。

また利用者の状況に合わせて、通所から自宅への訪問にすぐにサービスを切り替えることもできます。状況の変化をスタッフがすぐに共有できるのが、小規模多機能型の良さですね。

藤巻 工藤さんをはじめスタッフの皆さんが丁寧に対応している様子がよくわかるので、本当に頭が下がります。

工藤 まだサービスに慣れていない人には、まずお風呂だけ、食事だけのように、短時間でご利用されることをおすすめしています。そのうち、お風呂の後に食事を召し上がるようにと、少しずつ滞在時間が長くなってきます。私たちも、無理強いすることはありません。

ソーシャルワーカーが小規模多機能型をすすめるのは、本人や家族がどんな状態の時ですか?

藤巻 ご家族の介護力が弱くなったと感じる時です。いわゆる『老老介護』の場合、利用者とご家族が共に自宅での生活を希望していても、介護が長期化したり、家族の体調が悪くなったりすると、介護の継続が難しくなります。

工藤 例えばインフルエンザが流行した時期に、ご家族がインフルエンザを発症してしまいました。利用者である夫にインフルエンザを移さないために、泊まりを利用したケースもあります。ご家族の支援ができるのも小規模多機能型の良さかもしれません。

顔なじみのスタッフが
対応する安心感

利用者にとって、小規模多機能型を選択するメリットとは?

工藤 利用者の自宅に訪問するのも、通所や宿泊で対応するのも、すべて顔なじみのスタッフです。初めは戸惑っていた人も、何度も接するうちに慣れてくるので、安心してサービスをご利用いただけます。

藤巻 利用料金は、通所、宿泊、訪問を月に何回利用しても、月額料金は同じです。わかりやすい料金体系も、家族にとって安心できるポイントでしょう。

逆に、小規模多機能型のデメリットは?

藤巻 本人・ご家族にとっては、ケアマネジャーの変更ではないでしょうか。これまで訪問介護などのケアプランを作成していたケアマネジャーから、小規模多機能型施設に所属するケアマネジャーに変わります。私たちも説明しますが、この部分で戸惑う方もいるかもしれません。

工藤 利用者は、病院や地域包括支援センターからの紹介がほとんどです。でも、まだまだ小規模多機能型を知らない病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センターの担当者もいるかもしれません。小規模多機能型サービスの魅力をもっと広めたいですね。

藤巻 高齢者を支えるさまざまな人たちが、小規模多機能型の良さを知ると、さらに利用が進みそうですね。

工藤 もちろん施設に見学に来られる方は大歓迎。利用者やご家族の方だけでなく、介護に携わる様々な立場の方に、いつでも見学にいらしていただきたいですね。

似たサービスに、看護小規模多機能型居宅介護(※2)があります。ちがいは?

藤巻 医療ニーズの有無です。褥瘡(じょくそう)の処置やその他の医療的処置が必要な場合は、看護師などの医療スタッフのいる看護小規模多機能型の利用を選択します。

ただ、たとえ医療的処置が必要な利用者であっても、看護小規模多機能型しか選択肢がないというわけではありません。

例えば、糖尿病と診断されてインスリン製剤を使用する利用者の場合、職員の見守りがあり、ご自身で注射器を使えるなら、小規模多機能型を選択することもあります。

工藤 小規模多機能型には、医療職が少ないケースが多い。地域にある病院や診療所との連携がなければ、医療ニーズのある利用者の受け入れは難しい。そんな時は、利用者の状態を藤巻さんにしっかりお伺いしています。

※1:小規模多機能型居宅介護

利用者が住み慣れた地域で日常生活を送れるように、要介護者やご家族の状況や希望によって、施設への「通い」、短期間の「宿泊」、利用者の自宅への「訪問」を組み合わせて利用できるサービス。

【人員配置基準】
①従業者のうち1人以上は「常勤」であること。
②従業者のうち1人以上は「看護師」又は「准看護師」であること。

※2:看護小規模多機能型居宅介護

医療ニーズのある利用者が、利用者の状況や希望によって、施設への「通い」、短期間の「宿泊」、利用者の自宅への「訪問」、看護師による「訪問看護」を組み合わせて利用できる。看護と介護が一体となったサービスを受けられる。

【人員配置基準】
①従業者のうち1人以上は「常勤の保健師または看護師」であること。
②常勤換算方法で2.5人以上は「保健師」「看護師」または「准看護師」であること。
③訪問看護事業者の指定を併せて受け、同一事業所で一体的に運営をしていれば、訪問看護ステーションの人員基準(看護職員2.5人以上)を満たすことにより②の基準を満たすものとみなす。

行政、医師会も後押し
地域で高齢者を支える

千葉県松戸市の常盤平とは、どのような地域ですか?

工藤 松戸市内の中でも、特に高齢化が進んでいる地域です。例えば高度成長期に建てられた常盤平団地(※3)は、単身高齢者の「孤独死」の問題を抱えています。団地だけの地域包括支援センターもあるほど、高齢者の人数も多い。民生委員や相談員というボランティアもいますが、すべての高齢者を把握しているわけではありません。なかなか手が回らないのが実情です。

藤巻 松戸市は、医師会も在宅医療と介護の連携を積極的に後押ししています。通院できない高齢者には、訪問診療に対応する医師も増えてきました。
工藤 地域ケア会議や研修会などもあるので、地域で活動する専門職が、自然に「顔の見える関係」になっているのかもしれません。

家族を支えるために医療と介護のつながりを深める

今後、小規模多機能型の導入を検討する専門職に向け、メッセージを

藤巻 本人、ご家族のニーズを、しっかりアセスメントしていくと、在宅と施設以外の選択肢として、小規模多機能型も出てくるはず。特に認知症の症状が悪化し、本人がデイサービスに行きたがらなくなるような状況があれば臨機応変に対応できる小規模多機能型も選択肢に入れてほしいですね。

工藤 利用料金が月額で一定なので、どうしても家族は毎日のように通所や宿泊をさせたいというご希望があります。ただ1日の通所利用定員は15名までとなっています。通所の利用者数調整は、どこの小規模多機能型のケアマネも多少苦労されていると思います。

また常に利用者の声に耳を傾けながら、そこで得た情報を事業所内はもちろん、いろいろな専門職とも共有することも大切です。

藤巻 そのためにも、私たちもさらに連携していかないと。

工藤 多職種連携、そして本人・ご家族も含めて、それぞれとのつながりを深めていきたいですね。

 

※3:常盤平団地

昭和30年代、東京近郊の住宅不足を解消するために建設された、日本初の大規模団地。入居者は、高度経済成長期だった当時「団地族」と呼ばれた。今では単身高齢者が増え、誰にも看取られずに自宅で死亡する「孤独死問題」も浮上。団地自治会が対策を迫られている。

取材協力

http://www.healthy-service.co.jp

株式会社ヘルシーサービス ガーデンコート常盤平営業所
〒270-2261 千葉県松戸市常盤平1-13-7 TEL.047-394-0520

ヘルシーサービスは、積水化学グループの一員です。 千葉県、神奈川県、埼玉県および宮城県にて、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、 サービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホーム、訪問入浴サービス、訪問介護サービスを展開しています。