そこまでやるか!在宅医療

“必要”カロリー という曲者

  • No.82018年9月10日発行
計算してあるから安心。実はそんな考え方に落とし穴が。体調の維持や回復に大事な栄養。しかし、患者さん、利用者さんを一律に考えてしまうと、治療もうまく進みません。さて、第3回、髙橋先生はどんな往診をするのでしょう。

「床ずれの患者さんです」と看護師さんから紹介されました。ベッドサイドに立つと、布団のわきから枯れた小枝のような腕が出ていました。床ずれはお尻で、皮膚が欠損して下肉が見えていました。シワは深く、痩せが進んでいました。完全な低栄養状態です。病院受診をする7割以上の人が何らかの栄養不良状態であると言われています。管理をされた食事をしている施設入所の高齢者も、間食まで1日の必要カロリーに含めて計算されていますので、少しでも食べられなければ痩せていきます。脱水状態にでもなれば、めぐる血液は粘稠で量も足りなくなります。

年齢と性別、身長と体重をもとに管理栄養士さんが必要カロリーを計算します。しかしこの“必要”カロリーというものが曲者なのです。例えば、この患者さんは身長150cm、診療時の体重42kg。簡易式で計算すると、体重×30kcal=1,260kcalとなります。しかしこれは42kgの体重を保つのに必要なカロリーで、150cmの人の標準体重49.5kgの必要カロリーは、1,485kcal。さらに、傷口を治すのに必要な上乗せを10%で計算すると、合計1,634kcalとなり、実にその差は374kcalです。計算の基準となる体重の設定が間違っていれば、結果もずれてきます。
褥瘡に限らず栄養を考慮して計画された治療はスムーズです。低栄養は低免疫状態ですので、病気を繰り返しやすいもの。代謝の低下した高齢者ではなおのことです。鉄欠乏の患者さんは貧血になり、臓器への酸素も栄養も供給が不足します。必須ミネラルが欠乏すると皮膚・粘膜は再生しきれません。蛋白がなければ組織も作られません。

往診クリニックの中にも管理栄養士さんを同行させて、患者さんの栄養管理をサポートしているところもありますが、その取り組みはまだ十分普及しているとは言えません。在宅における栄養管理の理想は2つあります。1つは、毎回でなくてもいいので、管理栄養士さんにも回診に同行してもらい患者さんの栄養状態を報告してもらうこと。もう1つは、医療従事者だけでなく介護従事者も栄養の知識を深め、その重要性を理解することです。他職種連携で専門家に意見を求めるのであれば、それを受け取る側も準備が必要でしょう。

髙橋 公一氏

たかはし こういち

医療法人 高栄会 みさと中央クリニック 理事長 医学博士

人呼んで「くだもの」のお医者さん。ポータルのエコーやレントゲン、内視鏡などの医療機器を持参して往診。胃ろう、気管切開チューブ、尿道バルーンといった「くだもの(管物)」の交換を患者さんのベッドサイドで行う。同時にそのトラブルにも対応。褥瘡治療、陥入爪、痔核なども往診にて処置・加療する。またNST(Neutrition support team)経験も豊富で、往診先でも栄養指導を取り入れた回診をしている。ポリファーマシー対策にも力を入れている。