Watching! ヘルスケアイノベーション

2018年 デンマークヘルスケアツアー

  • No.82018年9月10日発行
ATTENTION創刊からスタートした連載記事の執筆もまる2年が経ちました。そして創刊当初から4回目となるデンマーク訪問。今回は5月15日から17日にかけて開催されたHealth & Rehab Scandinavia 2018への参加とあわせてオーフス市を再訪しました。

本展示会イベントに参加して

Health & Rehab Scandinavia 2018は2年に1回開催される展示会イベントで、デンマークをはじめとしたスカンジナビア諸国からの参加者は7000人から8000人の規模となります。日本で毎年行われる国際福祉機器展と同様のイベントです。テーマは、“Active life – a life for all”。展示だけでなく会議やワークショップ、セミナーを通じて、障がい差別の問題や、福祉技術・デザインにも焦点を当てて行われました。会場でもっとも強く感じたことは、高齢者・障がい者が主役であるということです。

Health & Rehab Scandinaviaの会場
(コペンハーゲンの郊外の展示場:Bella center)

デンマークでは当たり前のリフト。リモコンでベッドの上にリフトを移動し、利用者の身体を引き上げるだけなので、利用者にも介護者にも負担がない

歩行リハビリを自力で行うことのできる歩行器。担当者からは、日本人にとっての大きさについてヒアリングされた

デンマークにおける医療福祉の目的は、国民が最後まで働く(残された能力を最後まで使うという意味)ということです。このため、福祉機器開発の目的も残存能力を活かすことに焦点が当てられます。そして、ポジティブに暮らせるようにすることが重要となります。

例えば、日本の国際福祉機器展でも車椅子はたくさん展示されますが、この会場に展示される車椅子はそのバリエーションにとても興味深いものがあります。車椅子がそのまま取り付けられるモーターサイクル、昨年もこのコーナーで紹介した立ち上がりのできる車椅子、持ち運びが簡単にできる車椅子など、多機能の車椅子が多く展示されていました。車椅子で来場する方も、介助者を伴わず1人で入ってきました。会場内にあるカフェはハイカウンターなのですが、座面の高さを変えられる車椅子で普通に楽しんで利用していました。会場には車椅子バスケットのコートがあり、参加者が車椅子でバスケを楽しんでいました。車椅子生活を楽しみ、ポジティブに暮らすための情報がたくさん提供されているのです。

パネルディスカッションでは脳性麻痺やダウン症の人も普通に参加しており、それぞれが思うこと、感じることを話していました。主役はサービスを受ける側。そのためにテクノロジーがどうあるべきか…。福祉技術のこうした考え方の基本を、この展示会を通じて知ることができます。日本の介護テクノロジーの多くがこの視点に欠けているのではないかと、デンマークにくるたびに考えさせられます。日本では、介護ロボットによって介護者をサポートするための技術が研究されます。しかし、利用者が自分の残存能力を活かして自分でベッドから起き上がり移乗できるようにサポートするための技術の方が優先されるべきではないでしょうか。その方が、介護者と利用者の双方にとって良いのではないかと思うのです。歩行サポート機器の展示ブースの担当者から「この歩行器は日本人のサイズには大きすぎると思う?」と質問されました。こうして彼らはいつも利用者のニーズをはかっているのだと思います。

認知症の人のためのフィットネスクラブ。
運動をした後で心と体を落ち着かせる

身体の不自由な人のために身体に近づけることができる、動く洗面台

大きな工事をしなくても容易に取り付けられるエレベータ

エレベータ

車椅子のモーターサイクルを楽しむ

車椅子バスケを楽しむコーナーも

立ち上がりのできる車椅子

VRが作る未来の介護

本イベントでは、認知症やリハビリテーションのための様々なアプリやVRシステムを見ることができました。VRについてはいろいろな実証がなされており、会場でお会いしたコペンハーゲンの大学の教授によると、ヨーロッパでは30件ほどのプロジェクトが実証事業を行なっているようです。フィジカルリハビリテーションから買い物ゲーム的なリハビリ、外出がままならない利用者のために、外出して人と出会うというようなVRなどコンテンツが豊富です。

高齢者のリハビリテーションVRのGonio VRは弊社内でも試せるVRソフトです。今回は彼らの開発の現場を訪問し意見交換してきました。開発チームのメンバーは、作業療法士のJesperとエンジニアのEgeの2人です。Jesperは、コペンハーゲンでセラピークリニックを運営しながらVRリハビリの実証を行っています。クリニックでは隣接するフィットネスクラブを活用してリハビリをしていますが、VRリハビリは空間さえあればどの部屋でもできます。そしてコンテンツのバリエーションによって様々なリハビリを体験できます。Gonio VRはまだ開発途上ですが、現在は肩のリハビリができるようになっています。

以前流行ったイライラ棒を通すゲームや森の中で実を取ってジュースを作るゲームもあります。-これらは没入感がすごく、知らないうちに自ら進んでいろいろなゲームをやるようになります。ゲームの前後では可動域のチェックや痛みのチェックを行い、成果が見える化できるようになっています。現在彼らはフィンランドのナーシングホームと一緒に評価を行っていますが、日本でも弊社で体験できますので興味のある方はご連絡いただければと思います。

Jesperのセラピークリニック

セラピーのメンバーは「Eスポーツ」のチームも作っている。「Eスポーツ」は身体と脳を繋げるとのこと

VRリハビリテーションの設備

ウェルフェアテクノロジーが身近に体験できるDOKK X

エンジニアのEgeが住んでいるということだったので、オーフスを再び訪ねてみることにしました。以前ご紹介したように、オーフス市はリハビリテーションテクノロジーのインキュベーション(事業の創出や創業を支援するサービスや活動)がとても活発な都市です。ケアテクノロジーの展示会であるCareWareが毎年開催されるだけでなく、図書館とシティホールのある施設にはウェルフェアテクノロジーが常設展示されているDOKK Xがあります。認知症の人のグループがリハビリを兼ねて来館することもあります。年に4回テーマを変えて展示されるそうですが、いつでも市民が体験できる環境となっています。市民にとってもケアテクノロジーが身近であることがわかります。

利用者の残存能力を引き出すことを目的としているウェルフェアテクノロジー。確かにデンマークは誰もが知る福祉国家ですが、その徹底した考え方はこれからの日本の自立支援介護のヒントになるのではないかと、今回の旅でもその思いが一層強くなりました。

 

年4回、テーマに合わせて様々な情報を展示するDOKK X。
この時は子供でも誰でも使える道具を展示

オーフスにあるウェルフェアテクノロジーの展示スペースDOKK X。入り口の案内ロボット

ポータブル車椅子。手軽に持ち運びできる

ポータブル車椅子。

片麻痺の人でも、ビンの蓋が簡単にあけられる真空固定機

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阿久津 靖子氏

あくつ やすこ

株式会社MTヘルスケアデザイン研究所 代表取締役・所長

筑波大学大学院理科系修士環境科学研究科にて地域計画を学び、GKインダストリアルデザイン研究所入社。プロダクト製品開発のための基礎研究や街づくり基本計画に携わる。1999年、子育て期の終了とともに、子ども家具「フォルミオ」で情報発信型店舗の運営を行い、その後、寝具会社数社にて商品企画開発(MD)および研究、店舗の立ち上げ、マネジメントを行う。その当時より、ヘルスケアライフスタイル創造を目指す製品開発や店舗プロモーションを模索し、(株)メディシンク ヘルスケアデザイン研究所企画室長として参画。2012年独立し、デザインリサーチファームとして(株)MTヘルスケアデザイン研究所を創業。