そこまでやるか!在宅医療

ポリファーマシー対策はケアの充実が第一歩

  • No.9
リハビリ後なのに、今までよりもふらふらしている…、という利用者さんはいませんか。もしからしたら、〇〇症に××薬、△△症に〇〇薬、××症に△△薬…。ああ、夜も寝てくれない(介護する私も眠れない)。髙橋先生、どうしてこうなるの?

「大腿骨骨折術後です。一昨日リハ病院からいらっしゃいました」と施設のケアマネジャーが廊下で、車いすに座るご婦人を紹介してくれました。診療情報提供書を確認し、「整形外科で鎮痛薬と骨粗しょう症の薬、内科では降圧薬、高脂血症薬、脳梗塞予防の薬と便秘薬が複数出ている。内服薬は9種類だね」と私が言うと、 「先生、別の病院で認知症薬2種と睡眠薬2種もらっています。全部で13剤飲んでいます」と看護師が教えてくれました。明らかに内服薬の数が多すぎます。
たくさんの基礎疾患を持っている高齢者は複数の診療科を受診し、各科で数種類の薬を処方してもらうことになります。特に入院後は処方薬が多くなります。転院時の申し送りで、「この患者さんは夜、寝られない」と言われると、看護・介護をする側が睡眠薬依存症になることさえあるのです。
さらに代謝の落ちた高齢者は薬の分解能力が低下し、成分が残留して効能が強く出ることがあります。それでも時間になったら次の薬を飲むから副作用が出やすいのです。1日に6剤以上の内服薬を飲むと、1日に5剤以下の場合よりも転倒リスクが高くなることはよく知られた事実です(グラフ参照)。
このように多くの薬を服用することで有害事象を起こすことを「ポリファーマシー」と言います。
毎日のケアを充実させることで内服薬を減らすことができるようになります。まず、十分な水分摂取をして血圧を安定させます。脱水が改善されると、毎日便が出るようになります。食事もすすんで活動性も上がります。日中動くと適度に疲れて、夜眠れるようにもなります。これは認知症周辺症状(BPSD)の軽快にもつながります。
内服薬を整理・減薬するためには、その利用者さんの状態把握が一番重要です。私たち医師が自信を持って薬の調整ができるのは、利用者さんの病状を毎日看ている看護師・介護士が伝えてくれる正確な情報に支えられているからにほかならないのです。医療・介護の連携の重要性がますます高まっていると感じます。
次回は具体的な減薬の方法についてお話します。

髙橋 公一氏

たかはし こういち

医療法人 高栄会 みさと中央クリニック 理事長 医学博士

人呼んで「くだもの」のお医者さん。ポータルのエコーやレントゲン、内視鏡などの医療機器を持参して往診。胃ろう、気管切開チューブ、尿道バルーンといった「くだもの(管物)」の交換を患者さんのベッドサイドで行う。同時にそのトラブルにも対応。褥瘡治療、陥入爪、痔核なども往診にて処置・加療する。またNST(Neutrition support team)経験も豊富で、往診先でも栄養指導を取り入れた回診をしている。ポリファーマシー対策にも力を入れている。